作業着のおじさんは読む

電車で向かい合わせに座ったおじさん。仕事帰りだろうか。
上下作業着にキャップに安全靴、太い眉毛に無精髭。４０歳ぐらいだろう。一重の目からは生気が感じられない。


ふと、おじさんが鞄から一冊の本を取り出した。


「幸せな小金持ちへの８つのステップ」




（お おじさん。。）


大金持ちではなく、小金持ち。

謙虚だ。
リアルだ。

おじさんの小金の範囲はわからないが、本を読む真剣さからすると、８つのステップを踏もうとしている。
時に眉間に皺を寄せ、時に歯をくいしばり、本と戦っている。

あっ

さっき座っているときと目つきが違う。
おじさんは本気だ。

もしかしたらもうすでに１つめのステップを踏んでいるのかも知れない。



名も知らぬ、おじさんを心の中で応援した昼下がり。僕は撮影に備え、家路を急ぐ。